消化管以外の経路からの薬物吸収について

消化管以外の経路からの薬物吸収について

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薬物の投与経路を最適にすることで、治療効果は大きく変わってきます。

 

一般的には、経口投与が使用されています。これは、患者自身の服用が簡単であることが最も大きい理由です。

 

しかし、薬剤が水溶性のものであったり、高分子である場合などには十分に吸収されないため、全ての場合で適しているとは言えません。したがって、経口投与以外の投与方法が必要とされています。

 

現在では、薬物の新しい投与経路として、直腸、鼻腔、眼、肺、膣、皮膚などを利用した研究が進められています。

 

①口腔粘膜吸収

口腔粘膜の構造

口腔粘膜の上皮は重層扁平上皮で構成されており、胃腸管よりむしろ皮膚に近い構造をしています。

 

また、口腔粘膜はさまざまな粘膜が集合しており、角質層の有無や上皮の厚さなどは、部位によって大きく異なっています。

 

薬物吸収機構

口腔粘膜からの薬物吸収機構は、一般的に受動拡散で、pH分配仮説に従うとされています。

 

また、薬物のイオン解離状態(イオン形、分子形)と吸収の間にも密接な関係があり、イオン形の薬物は、口腔粘膜からほとんど吸収されません。

 

口腔粘膜の特徴

①肝初回通過効果を回避できる
②胃酸、消化酵素など過酷な環境にさらされない
③皮膚に比べて、一般的に口腔粘膜の透過性は大きい
などが、考えられます。

 

②経肺吸収

呼吸器から吸収させる投与法は、麻酔剤や喘息治療剤など古くから用いられています。

 

一般的に、肺からの吸収は極めて速く、正確な用量を与える吸入装置が開発されれば、肺は全身作用目的とした投与部位としても期待されています。

 

肺の構造

肺胞では、平たい上皮細胞一層が肺胞腔内と毛細血管との間のバリアーとして働いています。この両者の距離は、上皮細胞と毛細血管を合わせて、わずか0.5~1 μm しかありません。

 

これは小腸絨毛における吸収表面から毛細血管までの距離や皮膚表面から皮下の毛細血管までの距離がそれぞれ40 μm、100 μm であるのに比べて著しく小さいことがわかります。

 

また、ヒトでは、この肺胞の数は3~4億といわれており、その総表面積は約200平方メートルにも達します。これは小腸上皮粘膜の微絨毛を考慮した総表面積にも匹敵します。

 

さらに、肺胞に至る毛細血管の総表面積も広いという点も挙げられます。

 

これらの条件を考えると、肺が体内の中でも良好な薬物吸収部位として利用できる可能性があると考えられます。

 

肺吸収においても、親油性は極めて大きな支配因子です。また、吸収率は初濃度によらず一定であり、受動拡散による吸収であると考えられています。一方、肺吸収にも特殊輸送機構の存在も示されています。

 

実際に薬物を吸入により投与する場合、粒子径により到達部位が限られているので注意が必要です。

 

例えば、肺に作用させるのが目的であれば、1~10 μm 程度でよく、全身作用を発揮するためには0.5~1 μm程度が良いとされています。また、あまりにも小さくなり過ぎると、一度吸入されてもそのまま呼気中に出てしまうので注意が必要です。

 

③鼻粘膜吸収

以前までは、鼻粘膜への薬物投与というと局所的な作用を期待するものに限られていました。しかし最近では、全身投与を目的とした薬物投与が研究されています。

 

すでに、酢酸デスモプレシンなどが実用化されています。鼻粘膜吸収された薬物は直接体循環に入るため、肝臓における初回通過効果を避けることができる面でもメリットがあります。

 

鼻粘膜は、鼻前庭、呼吸部、嗅部からなっており、それぞれが異なった性状を示します。ここで、薬物の吸収は鼻腔下部の大部分を占めている呼吸部で行われています。

 

鼻粘膜吸収の特徴

直接体循環に入っていくため、肝臓における初回通過効果を回避することができます。そのため、肝初回通過効果で不活性化される薬物にとって有利な投与方法と言えます。

 

例として、テストステロンをラットに十二指腸投与した場合、AUCは静注時の1%に過ぎませんが、経鼻投与ではほぼ静注投与と同じだけの血中濃度を得ることができます。

 

④直腸吸収

直腸の機能は、大腸からの腸内容物を一時的に保持して最終的に糞として排出することです。そのため、薬物の吸収部位としてはあまり注目されていませんでした。

 

しかし、利点もいくつかあります。
①肝初回通過効果を回避できる
②乳児のように経口投与しにくい場合に適する
③食事の影響を受けず、胃酸や酵素分解を避けられる
などが考えられます。

 

直腸の構造

直腸粘膜は小腸粘膜と異なり、ひだが少なく絨毛も発達していません。そのため、一般的には薬物の吸収部位としては本来適していません。

 

しかし、理由によっては有効な吸収部位となります。特に肝初回通過効果に関しては、特徴的な静脈の差を利用しています。

 

つまり、直腸上部から吸収されると、上直腸静脈から下腸間膜静脈を経て門脈に入り、肝を通過するので初回通過効果を受けることになります。

 

一方、直腸中下部から吸収されると中直腸静脈や下直腸静脈から総腸骨静脈を経て下大静脈に入るので肝を通過せず、初回通過効果を回避することができます。

 

直腸吸収の特徴

胃粘膜吸収と同様に、pH分配理論に従うことが知られています。つまり、脂溶性のものほど溶けやすい、油水分配係数の大きいものほど吸収されやすいということです。

 

また、イオン型よりも非イオン型(分子型)の方が吸収されやすいという特徴を持っています。さらに薬物の直腸吸収速度は初濃度に比例することから、受動拡散に従うと考えられています。

 

その他の特徴としては、直腸内にされた坐剤は基本的に投与部位に留まります(経口投与の場合は消化管内を移動していくため、効果が薄くなります)。

 

したがって、吸収促進剤を確実に作用させることが可能となります。そのため、直腸吸収をコントロールするための有力な手段として研究が進められています。中でも、天然の中鎖脂肪酸の一種であるカプリン酸ナトリウム塩は、安全性の高い吸収促進剤として有用性が示されています。

 

⑤経皮吸収

皮膚の構造

皮膚は大きく分けて表皮、真皮、皮下組織の3層からできています。表皮のもっとも外側は角質層と呼ばれる細胞の層によって覆われています。これにより、水の蒸散や外部からの物質の侵入に対する第1のバリアーとなっています。

 

角質層は、核のない扁平な細胞が10から20層ブロック上に並んで形成されています。これらの細胞は、基底細胞から分化、移行してきたもので、約2週間のターンオーバーであるといわれています。

 

角質層の特徴として、細胞間隙が非常に広いということがあります。その細胞間隙は脂質で満たされており、その大部分は中性脂質、特にトリグリセライドが多量に含まれています。角質層のバリア機能は、この細胞間隙の脂質の寄与によるものであると考えられています。

 

その他に、皮膚表面には毛嚢や皮脂腺、汗腺などの付属器官が存在しています。

 

経皮吸収される経路として考えられるのは、角質層経路経付属器官経路の2つがあります。一般的に、経付属器官経路からの吸収は速やかですが、その有効表面積は全体の0.1%程度であるため、薬物透過全体における寄与は小さいと考えられます。

 

したがって、皮膚に投与された薬物の大部分は角質層を通って吸収され、脂溶性の高い薬物ほどその透過性は高いと考えられます。

 

角質層の内側には、生きた細胞の層があります。外側から透明層、顆粒層、有棘層及び基底層の異なる4層があります。異なる4層といいましたが、これらはもともと個別なものではなく、基底細胞が成熟して角質層細胞になっていきます。

 

角質層の含水率は約20%ほどですが、これらの生きた細胞は、含水率が約90%となっています。

 

さらに、表皮の直下は、真皮と呼ばれる繊維状タンパク質から成る結合組織のマトリックスが存在しています。皮膚の弾性特性はこれに由来していると考えられています。

 

経皮吸収の改善方法

基剤の選択、薬物の脂溶性プロドラッグ化、経皮吸収促進剤の利用、イオントフォレシスなどがあります。

 

プロドラッグ化

薬物に脂溶性の官能基を導入したプロドラッグを合成し、皮膚への親和性を高めることで吸収の改善をすることができます。

 

角質層から吸収されやすく設計したプロドラッグは、角質層を効率よく透過した後、本来薬効を発揮する形に戻されて、それぞれの薬物の効果を発揮します。

 

一方、アンテドラッグというものもあります。これは、吸収部位局所で薬理作用を発揮した後代謝され、全身的には副作用の発揮が抑えられるように設計されています。

 

イオントフォレシス

皮膚に電流を流すことによって、荷電した薬物を強制的に送り込む方法です。電流は主に抵抗の小さい付属器官を通って流れるため、薬物はこの経路を通って吸収されると考えられます。

 

この方法では、比較的大きな分子でも皮膚から吸収させることができ、現在インスリンのようなペプチドの経皮吸収に関する研究が行われています。

 

⑥注射からの吸収

皮内注射

ツベルクリン反応などの検査、診断に用いられます。

 

皮下注射

投与部位から血管壁を通って血管内に薬物が移行していきます。吸収速度は、薬物の脂溶性、分子サイズ、血流などにより左右されます。

 

筋肉内注射

皮下投与と同じで吸収速度が左右されます。分子量5000以上の薬物は、投与後血管系よりもリンパ系に移行しやすいという特徴があります。

 

静脈内注射

吸収過程を必要とし、直接血管内に薬物を投与するため、吸収の悪い薬物でも100%利用することができます。

 

それぞれの投与部位と特徴についてのまとめ

部位

剤形

代表的な医薬品

特徴

鼻粘膜

点鼻剤

酢酸デスモプレシン

(中枢性尿崩症)

・鼻前庭、呼吸部、臭部から成っており、特に呼吸部から吸収される。

・肝初回通過効果を回避することができる。

・一般的に単純拡散で吸収される(ただし、イオン型も吸収が認められる)。高分子薬物も吸収されやすい。

口腔粘膜

舌下錠

ニトログリセリン

硝酸イソソルビド

・重層扁平上皮で覆われている。

・肝初回通過効果を回避することができる。

・一般的に単純拡散で吸収される。

舌下錠やバッカル錠が用いられる。

吸入エアゾール剤

ステロイド

・薬物の吸収は極めて速い。

・肝初回通過効果を回避することができる。

・肺から担体を介した輸送系により吸収される薬物がある(フェノールレッド、ベンジルペニシリンなど)。

・高分子薬物が吸収されやすい。

薬物の粒子径により吸収動態が異なる(0.5μ~1μ)

直腸

坐剤

解熱鎮痛剤

・脂溶性の高い薬物は効率よく吸収される。

直腸上部を除き、肝臓での肝初回通過効果を回避することができる。

・カプリン酸ナトリウムなどの吸収促進剤の効果が小腸に比べ発現しやすい。

・一般に単純拡散で吸収される。

皮膚

軟膏剤

貼付剤

ニトログリセリンなどの経皮吸収システム

・表皮、真皮、皮下組織に分類される。

・最外層には角質層が存在し、薬物透過の最大障壁となっている。

吸収経路は、角質層と付属器官の2つがある。

・皮膚をフィルムで密封すると角質層が水和し、薬物の皮膚透過性が高まる(密封療法)。

注射

注射剤

様々な医薬品

投与部位から速やかに毛細血管に入る。

・分子量が大きい場合、毛細血管壁を透過できず、リンパ系を介して最終的に血液へ移行する。リンパの流速が遅いため吸収が持続する。

参考)非拡散水層

腸管表面の近くには、非拡散水層と呼ばれる十分に攪拌されていない水層が存在していると考えられており、薬物の吸収を妨げています。

 

一般的に、小腸上皮細胞の透過率が高い薬物(脂溶性が高い)ほど、非拡散水層の影響を受けやすいと考えられます。

 

つまり、正確に薬物の腸管吸収の過程を考えるには、非拡散水層を通過する過程と消化管粘膜を通過する過程の2つを考える必要があります
詳しくはこちらのページを参考にしてください→非撹拌水層の考え方

 

このページで確認しておくことのまとめ

  • 経肺吸収における粒子径の大きさについての考え方
  • 経肺吸収における粒子径の大きさ
  • 直腸での吸収部位の違いによる肝初回通過効果の受け方
  • 経皮吸収の経路2つの考え方
  • 経肺吸収の改善方法
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